目指している職業の仕事内容を教えてください。
私は文化財の保存修復技術や模写制作に関わる仕事を目指しています。保存修復の仕事は、文化財をより良い状態で後世に残すため、修理することが主な仕事内容です。絵画や紙資料、建造物、仏像、歴史資料(土器や伝世品)など多くの分野があります。それぞれ専門の技術を持った技術者が作品の状態を観察し、原本に負担をかけずに今ある姿を安全に残していけるように修理を行います。
文化財を後世に伝えるため、原本の修理以外に模写や複製制作によって作品と技法、材料等を継承していく事も重要視されています。模写の仕事は、復元模写(原本作品の制作当初の様子を美術史や科学的根拠をもとに想定して描いた模写)として形に残し、当時の制作技法などの研究することも大切な仕事となります。
この職業を目指した理由
この職業を知ったきっかけは、たまたまテレビで放送されていた文化財修復の作業風景映像です。絵を描く以外の美術に関わる仕事として漠然とかっこいいと思ったことを覚えています。そんなテレビで知った仕事に携わる業界でサガビの卒業生が多数活躍していると知った時は驚きました。
具体的に目指すきっかけとなったのは教授に勧められて応募した文化財修復の短期アルバイトです。アルバイト中は技術者の方々の会話をすぐそばで見聞きし、作業も間近で見学させていただき、毎日が学びと緊張の日々でした。模写制作のサポートの仕事もさせていただき、本当に貴重な経験となりました。
修復現場と模写制作の現場で過ごすうちに、同じ空間で自分も働きたいという思いが日に日に強くなりました。
制作だけではなく、相手に伝える技術も磨く。
嵯峨美術大学 日本画・古画領域では2年生から日本画制作工房と古画研究工房に分かれ、それぞれ学びを深めていきます。2年生の時には、文化財修復技術者の方から裏打ちや紙継ぎなどの模写制作で活かせる技術を教えていただきました。また、絵の具の基本知識などを学びながら伝統技法の演習授業などもあり、初めて学ぶことの連続でした。3年生の時には科学の視点から古典絵画について学ぶことができ、本格的な模写制作も始まって、とにかく忙しかったです。
授業では、模写作品とその制作報告というかたちでプレゼンテーションを行います。作品について調べてわかったことや制作手順、研究内容などを説明する機会が多く、相手にわかりやすく説明して伝えることが身についたと感じました。
大学院に進学した今でも、学部生の時に学んだことが何一つ無駄にならず、自身の模写制作に活かせていると感じています。
作品に寄り添い、絵の背景を読み取る
模写制作では、お手本を元に同じ作品を作っていくことになりますが、ただ見える線や色を写すだけでは原本の良さや雰囲気が伝わらない絵に仕上がります。作品に寄り添いながら、作者の意図は何か、どう表現し伝えようとしているのかを読み取ることが大切だと制作を通して感じています。技術だけでなく、絵の外側である時代背景や作者について深く知り、自身が原本作品の1番のファンという気持ちで描き始めています。
模写は制作期間がどうしても長く必要になるため、気持ちを切らさずに日々制作することも大切です。時間をかければいいものができるという訳でもないのが難しいなと感じています。完成間近になると「絵師(作者)に認めてもらえるような絵を描きなさい」というこの言葉を思い出しながら、筆を置くか、加筆するのかを考えるようにしています。
狗子図(現状模写)
今後の目標
大学院修了後は、修理技術者もしくは模写制作の技師として文化財に関わった仕事がしたいと考えています。そのため、在学中に古典絵画・模写制作についての研究をもっと深めていきたいと思っています。