アニメ業界のスペシャリストに聞きました

有限会社神風動画
美術
岡崎 慧さん

おかざき けい▶山形県出身。高校卒業後、金沢美術工芸大学で視覚デザインを専攻。卒業後、札幌デザイン&テクノロジー専門学校でCGを学び、2024年に神風動画へ入社。現在は美術職として、3DCGのテクスチャ制作やモデリング、美術設定、背景制作など、幅広い業務で活躍中。

「何でもやっておいて良かった」
幅広い経験で得た知識をアニメーション制作に注ぐ

大学でグラフィックデザイン、
専門学校でCGを学ぶ

 絵を描くのがずっと好きで、高校生の時には美術大学に行きたいと決めていました。専攻は大学のオープンキャンパスや体験授業で「この教授に習いたい」と決めた覚えがあります。実技試験対策のため、土日は絵の予備校に捧げるような生活を送っていました。
 大学では視覚デザイン専攻でグラフィックデザインを学び、卒業後の進路としては、広告代理店への就職も選択肢の一つとして考えていました。大学での学びは充実していたものの、毎日が忙しく、先生の教えも自分の中で咀嚼(そしゃく)ができていないと感じていました。その時期に偶然目にした「神風動画」制作のみんなのうた『トゲめくスピカ』やアニメに心を惹かれて、卒業制作は独学でCG作品を制作しました。卒業後は専門学校へ進学し、3年間でCGを本格的に学びました。私にとってこの7年が、必要な時間だったと振り返ります。

映像制作会社の「美術」担当として

 その後は、縁あって「神風動画」に入社して、現在はおもに「美術」を担当しています。弊社の美術では、基本的にアニメーションの背景や、テクスチャと呼ばれる3DCGの質感を表現する素材をデジタルで描いて作るのが仕事です。弊社では映像制作において、3DCGを使う機会が多い関係上、テクスチャの比重が多いです。
 作業に入る前は、まず打ち合わせがあり、監督やアートディレクターから「こういったイメージで制作してほしい」と発注があります。それを受けてこちらで作業して、何度かチェックと修正指示を受けながら、OKが出るまで調整を重ねます。また、3DCGを用いた背景のモデリング(背景となる建物や空間を、PC上で立体的に形づくる作業)も担当したり、美術設定をしたりしたこともありました。例えば会議室の美術設定を作る場合、天井がどのくらいの高さなのか。どのくらいの広さがあってどんなテーブルが何台置いてあるのか。空間そのものを設計するような仕事です。他には2Dのグラフィックデザインを描いたり、線画でイメージボード(設定やビジュアルを共有するイラスト)を描いたりしています。

入社半年でGLAYのMVを担当
大きな山を乗り越える

 新人の時は右も左もわからず、どうしたらいいのか迷う時もありました。自分の作ったものが世間に出ると考えたら緊張して、作業したものに対して「これでいいんだろうか」と悩んだのを覚えています。入社から半年後、GLAYさんが『BRIGHTEN UP』という新曲を初披露するライブにあわせて、舞台背景でも使用されるMVを制作する機会があり、グラフィックデザイン、背景のモデリング、看板などのデザインと色々担当させていただきました。新人のうちは、経験を重ねた先で多くの人の目に触れる仕事を任されるものだと思っていたので、横浜アリーナの大きな画面に映る仕事だと聞き「これでファンの人はいいと思ってくれるんだろうか」「これで大丈夫なのか」と毎日思っていました。新人時代を振り返ると、特に大変だった作品の一つですが、その分、得られた経験も大きかったと感じています。

頭の中の引き出しは多い方がいい
得た知識は仕事仲間への心遣いにも

 大学卒業後に専門学校で勉強を続けたことについて、「早く働いたほうがいい」という意見もありましたし、すでに社会人をしている同級生を見て「働いて社会経験を積んだほうが良かっただろうか」と頭をよぎる瞬間もありました。しかし、働き始めてから「あれは自分にとって必要な時間だった」と強く感じます。大学でも専門学校でも学校の方針で色々授業を取っていたおかげで、専門とはいかなくても基礎知識がついたので「3Dをやる人ならこのデータ形式が絶対役に立つはず」など、美術の範疇以外でわかることもあります。一つのことを極めるのに注力するべきかと悩んだこともありましたが、今では色々とやっていてよかったと感じています。

「エンドクレジットの名前を見て!」
両親や恩師に報告する時がやりがいに

 関わったカットや作ったものは、自分の手を離れた後に色々な工程を踏んで映像に乗ります。最終的に格好良い映像に仕上がっていると、やっぱり良かったなと思います。また、それが後々公開されて、ファンの方々からも好評だと、頑張った甲斐があったと手応えを感じます。最近の案件ですが、背景を描いたカットで監督から「映像全体を通して、このカットが一番、僕が最初に思い描いていた理想の通りにできました」と言われたことも印象に残っています。調べ物をしたりして一生懸命描いたカットだったので、そう言って貰えて本当に嬉しかったですね。また、クレジットに名前が載る仕事なので、両親や恩師に参加した案件を報告しやすいのも嬉しいところです。自分の名前が載っているのを見て喜んでもらえると、少し恩返しができたような気持ちになれます。こうした部分も大きなやりがいです。

“相手の期待の少し上”を心がける

 仕事で心掛けているのは、「できるだけ相手の期待の少し上のものを返すこと」です。あった方が見栄えが良いと思った時は+αをする。10求められたものを10で返すのではなく、10.5や11くらいでもいいので、少しでも上乗せして返したいと思っています。これを個人的な信条として、「この人に頼んで良かった」と思ってもらえたら、と思って仕事をしています。

アニメ業界を目指す高校生へのメッセージ

アニメーション制作志望でも絵を描く以外に何か興味があるなら、それを捨てずに自分の中に吸収していくと良いと思います。チャンスがある内に何でもやっておくと、後で「やっておいて良かった!」と思う時が来るはずです。

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