トヨタ自動車株式会社
デザイン統括部 統括室
堀井 育郎さん

ほりい いくろう▶美術系の大学を卒業後、トヨタ自動車株式会社に入社。以後、約40年間、様々な車種の外形デザイン、インテリアデザイン、カラーデザイン、マテリアルデザインなど、カーデザイン全般に携わる。また、公益社団法人自動車技術会のデザイン部門の委員としても活躍。同会主催のモビリティデザインコンテストでは、企画・運営の統括をしている。
お客様の幸せのために最上の形状を追求する
カーデザインは色々なパーツのデザインの集合体
カーデザインにおける3つのステージ
カーデザインは、大きく3つのステージに分かれます。まず「コンセプト・立案」です。このステージでは、市場調査を行い、トレンドや顧客のニーズを把握します。例えばカローラの新モデルなら現オーナーからのフィードバックを集め、デザインの方向性を決定します。
次に「デザイン」ステージでは、チームでアイデアを出し合い、1日に何十枚とスケッチを描きます。数ケ月間ディスカッションと取捨選択を繰り返し、最終候補を決定。さらに、インダストリアルクレイを使って1/4~1/5程度のスケールモデルを作成し、デッサンと比較しながら検証します。その後、フルスケールモデルを製作し、問題点を改良します。
最後に「デザインのデータ化」を行い、エンジニアが設計できるようにします。デザインの寸法をデータ化し、エンジニアからの指摘を受けて修正。最終的に設計部署に引き渡します。この過程で、エンジニアからのフィードバックにも対応します。

ユーザーに喜んでもらえる商品を追求
我々はユーザーに、「いかに喜んで使っていただけるか」を第一に考えています。ですから、仕事のやりがいを考えたとき、「ユーザーに喜んでいただける商品を作っている」という自負が、まず思い浮かびます。トヨタでは「お客様の幸せのために」という言葉をよく使うのですが、その思いはとても強いですね。あとは、自分がデザインした車を初めて街中で見たときは、とても感激します。さらに、その車がヒットしたら、もっと喜びは深くなりますね。
大変なのは生みの苦しみと設計の壁
カーデザインで大変なのは、まず「生みの苦しみ」という部分です。コンセプトが決まって「さぁ、アイデアを出そう!」となったとき、なかなか出てこないこともあります。もちろん、プロジェクトには期限が決められているので、「ここまでにはデザインを決めないといけない。ここまでにはデータ化しないといけない」となります。その段階でアイデアが決定していないと、ものすごく焦ります。
他には、こちらがカッコいいと思ってデザインしたものが、設計の段階で「こんな形じゃ成り立たないよ」と言われることもあります。そんなときは「設計要件」に当てはめながら、いかにカッコいいデザインにするのかという、本当に1mm、2mmのせめぎ合いになります。
なぜカーデザイナーは潰しが効くのか?
よく「カーデザイナーになれば潰しが効く」といわれます。なぜなら、カーデザインはものすごく色々なパーツからできているので、様々なデザインに応用が利くからです。ヘッドランプのデザインを経験すれば照明器具のデザインに対応できるし、インパネのデザインを経験すると家電のデザインもできるようになります。メーターのデザインを担当すれば、時計や文字盤のデザインの勝手もわかります。こうした点が、他のデザイナーとは違うかもしれません。車って、色々なパーツの集合体なのです。
美しいものを見てその理由を考えよう
絵は大人になって練習しても上手くなります。しかし、何が良いデザインかを見極めるセンスはなかなか身につきません。このセンスがないと、良いデザインは生み出せません。ですから、若いころからセンスを磨いておくことが重要です。センスを磨くには、例えば美術館に行って目を養ったり、評判の良いデザインを実際に見たりすることです。そして、美しいものには必ず理由があります。なぜそれが美しいのかを、自分なりに考えてみることが大切です。




