漫画業界のスペシャリストに聞きました

漫画家・美術作家
パピヨン本田さん

ぱぴよん ほんだ▶三重県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業。美術作家として活躍する一方、SNSに載せた自作の漫画で注目を集め、現代美術を題材にした「美術のトラちゃん」(イースト・プレス)で漫画家としても商業デビュー、人気を博す。他の著作に「常識やぶりの天才たちが作った 美術道」(KADOKAWA)など。

美術の世界でいろんな人に出会い、経験したことで面白がってもらえる漫画を描けるようになりました

コロナ禍で「家でできることをやろう」

 漫画は昔から好きで、小学生の時は「コロコロコミック」をよく読んでいました。漫画家にもなりたかったのですが、高校の頃から美術にはまったこともあって、美術作家をめざすようになりました。
 美大を出た後、2年くらいアルバイトをしながら彫刻を作り続け、少しずつ評価されるようになって、いよいよ芸術祭に出展だ!というタイミングでコロナ禍になり、緊急事態宣言で予定が全部なくなってしまいました。外に出られないので、じゃあお金を使わずに家でできることをやろう、と漫画を描いてX(Twitter)に載せ始めたのが今から4年くらい前です。友達が笑ってくれればいいな、くらいの気持ちで。それが話題になって、出版社さんから連載の声がかかり、そうして職業漫画家になりました。

凄い美術家さんも、普通のおじさんです

 芸術家や美術家って「孤高の天才」みたいなイメージがありますが、必ずしもそうではなくて。ある作家さんは社会問題をバリバリに扱った作品などを作られている、世界的に活動されている人なんですが、実際にお会いすると、PTAの役員もなさっている普通の優しいおじさんです。ご自分の展示会で「Adoさんの曲、娘がよく聴いてて最近僕も聴いてるけど、凄くとがっててカッコイイよね!」と楽しそうにお話しされているその人の横には、日本社会を痛烈に風刺する凄くとがった作品が(笑)。人間のそういうギャップってとても面白いなと思いますし、実は「美術のトラちゃん」もそのへんが出発点なんです。親が美術家なこと以外は普通の家庭が舞台のドタバタギャグ、みたいな。
 前に漫画家になりたかったけど一度あきらめた理由の一つが、面白い話が作れなかったからなんです。当時好きだった漫画よりも面白いものが描けないと感じていました。そして理由は多分、その時の自分が漫画しか読んでいなかったからです。社会に出て、並の創作物よりめちゃくちゃ面白い人たちと出会って、美術の世界でいろいろ経験したことで、多くの人に面白がってもらえる漫画を描けるようになったのかな、と思います。

現代美術ブームが起きてほしい

 実は今、近いうちに新作を出そうと動いています。今回も現代美術をテーマにした漫画ですが、ここいらでヒット作が生まれて、それがきっかけで現代美術ブームのようなものが起きてくれたらいいな、と思っています。僕は高校生の頃からおかしくなるくらい美術のことばかり考えていた時期があって、今の世の中も、ちょっとでいいからそうなってほしい(笑)。でも美術って本当に面白いので、自分の作品がきっかけで美術に興味を持ったり、展示会を観に行ったりする人が一人でも増えてくれたらうれしいですね。

漫画業界をめざす高校生へのメッセージ

漫画って、経験全てをネタにできるんです
今の日本で漫画を描いている人は死ぬほどいますし、王道路線をめざしても数々の超有名作にはおそらく勝てません。ただ自分の場合、美術に関する経験と知識が作家としての個性になっているので、他の人があまりしてない経験を積んで、それを漫画に反映すれば、あなたの強みになるかもしれません。漫画の技術面ももちろん大切ですが、その一方で、人生全部取材!というつもり何でもやってみるといいと思います。漫画って、経験全てをネタにできるんです。

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